ドクター通信
245 第70回日本癌学会から--がん抗原スプレッディングについて
20
Oct
抗原スプレッディングという現象をご存知でしょうか。
ある特定の抗原(例えば、がん抗原タンパク)を体内に投与した場合、そのがん抗原タンパクではない別種のがん抗原に特異的な免疫反応が出現することがあることから、あたかも投与抗原の種類がスプレディングして広がったように見える(体内で別種の抗原が現れる)現象を言います。
第70回日本癌学会(10月3-5日、名古屋)で、この関係の発表がありました。
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J-3091 NY-ESO-1癌ワクチン患者における血清学的「Antigen Spreading」
現象
和田 尚 他11名(阪大・消化器外科 他4施設)
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和田らは、組み換えNY-ESO-1タンパクを癌ワクチンとして13例の各種がん患者に投与、うち9例でNY-ESO-1に対する抗体を血清中で検出、そのうち8例の血清中でMAGE-A1, MAGE-A3, MAGE-A4, MAGEC1,MAGEC2, CT45, CT46, SOX2, SSX2, Xage1B, p53のうちの少なくとも一つの抗原に対する抗体が検出され、Antigen Spreadingが起こっていると報告しました。
注目されたのは、このNY-ESO-1癌ワクチンの治療効果をみたとき、1例のSD(痕跡が残っているためSDとの判定だが、実質的にはCRと判断される症例)では全くAntigen Spreadingが検出されず、PD症例(他のほとんどの症例)では多々検出されたという点です。
「Antigen Spreading」現象は、投与したがん抗原ワクチンが有効に作用して誘導された細胞傷害性Tリンパ球が体内のがん細胞を殺したため、死細胞から漏れ出た別のがん抗原が免疫系を刺激して認識されるのだ、と一般的には解釈されています。
和田らの結果は、この解釈と一見矛盾するように見受けられます。もちろん、まだまだ少数例の解析結果ですから限界があります。今後、多数例を蓄積し統計処理すれば、この一般的な解釈に合うAntigen Spreading現象と臨床効果の間の相関関係が統計学的に検出できるかもしれません。
しかし、少なくとも、「特定のがん抗原ワクチンを投与すれば、がん抗原スプレッディング現象が起こるため、特定のがん抗原以外のがん抗原を持つがん細胞をも殺せる」という、従来から想定されていたような関係は、個別症例では必ずしも成り立たないことを示しています。
やはり、特定の抗原を持つがん細胞を免疫系に認識させて殺すには、その特定の抗原を標的とするワクチンを投与する必要があると考えられ、もしその特定の抗原を発現していないがん細胞ががん組織中に混じっていると(これは頻発します)殺しきれず、有効性が低下するのではないかと考えられます。
すなわち、他のがん抗原も広くカバーしていない単一抗原ワクチンでは、がん抗原スプレッディング現象に期待できると仮定しても間接的な作用となることから、臨床効果は弱い、と推定せざるを得ないのではないでしょうか。








