ドクター通信
216 テロメアの変化とがんの多様性
18
Oct
日本農芸化学会が編集している「化学と生物」という学術誌9月号に「テロメアと発がん」という総説論文が掲載されています(Ref.1)。
年をとるとどうしてがんになりやすくなるのか、という素朴な質問に対する答えの一部が提供されています。要点を並べると、
1.分裂を繰り返している体細胞は段々分裂能力を失っていき、最後
は分裂を停止する。
(細胞老化現象として知られていて、線維芽細胞の場合は平均50
~70回の分裂まで。高齢者の体細胞は若いときに分裂してきた分、
残りの分裂能が低くなっている)
2.そのとき、染色体の末端にあって染色体を保護しているテロメア
というDNA繰り返し構造が、分裂回数に応じて短くなっていく。こ
れが分裂回数を数える時計がわりになっている。
3.テロメア長が限界(5kbp)に達すると細胞分裂はとまる。
4.このとき、がん遺伝子をもつウイルス感染などにより無理やり分
裂刺激をしていくと、テロメアは極端に短くなり(テロメア・ク
ライシスという)、染色体が不安定化、染色体異常(染色体がち
ぎれたり、他の染色体にくっついたりする)を起こし、多くの細
胞は死滅する。
5.しかし、一部の細胞では(出現頻度は低いが)、テロメアを伸長
させる酵素テロメレースが活性化し、テロメア・クライシスを脱
出、分裂増殖を延々と続けるようになり、不死化する。
6. また、染色体異常に伴う遺伝子変異(がん原遺伝子の変異)によ
り、一部の細胞はがん化する。
この「テロメア・クライシス→不死化→がん化」という発がんモデルでは、「染色体異常」が扇の要となっています。ほとんどすべてのがん細胞では、染色体異常があることが知られていますが、テロメア・クライシスを経たためだとすれば、不安定化した染色体は、一定の決まりきった染色体異常を起こすというよりも、むしろ様々な種類の多様な染色体異常を起こすと考えられます。
不死化した細胞の性状は多様であることは証明されています(Ref.1)から、そこからさらにがん化してきた細胞は、さらに多様になるであろうことは容易に想像できます。
さらに推測できるのは、がん細胞側の多様性からすれば、それらが発現するがん抗原も必然的に多様なものになるであろうという点です。
がん治療のためにがん免疫療法を施行する場合、単純な合成ペプチドをがん抗原としたワクチンを投与したのでは、有効性が非常に低いという事実(Ref.2)の、少なくとも一部の理由として、このがん細胞側の多様性に原因があると考えられています。
つまり、がん細胞側の多様性からして、その合成ペプチドと同じがん抗原を発現しないがん細胞はいるはずであり、合成ペプチドを目印にして活性化したキラー細胞が、このようながん細胞を見逃してしまうため、一過性にがん縮小を起こせたとしても、容易にがん再発に至るであろうと考えられるからです。
それにひきかえ、個々の患者のがん組織を丸ごとがん抗原として使用する「自家がんワクチン」は、その患者個人内部で起こったがん細胞の多様性から発したがん抗原がいかに多様であっても、丸ごとであるがゆえに十分カバーできると考えられます。
「自家がんワクチン」をご愛用いただければ幸いです。
REFERENCES
1.杉本正信:テロメアと発がん、化学と生物、48:630-636、2010.
2.Steven A Rosenberg, James C Yang and Nicholas P Restifo:Cancer immunotherapy: moving beyond current vaccines. Nature Medicine 10, 909 - 915 (2004) doi:10.1038/nm1100








