ドクター通信
207 米国臨床腫瘍学会(ASCO)2010報告
14
Jul
前号のドクター通信 from セルメディシン No. 207でお知らせしましたが、6月6日に、ASCO2010(シカゴ)にて、「脳腫瘍に対する自家がんワクチンの効果」について発表してきました(第1著者は東京女子医大・村垣善浩先生)。今回は質問も多く、たいへん好評でした。
このとき、ASCO全体の傾向について強く感じた点を以下に記載します。
今回のランドマークとなった発表は、転移性メラノーマに対する抗CTLA-4抗体ipilimumabのPhase III臨床試験の結果で、「あれだけ効くなら使いたい」という日本人の先生方の声がありました。
そのKaplan-Meier curveは以下に公開されています。↓
Ipilimumabは、T細胞の増殖阻害シグナルの発信を邪魔するヒト型抗体です。結合する抗原分子はCTLA-4で、もともとT細胞表面にあって、抗原提示細胞上にあるリガンド(B7.1またはB7.2)が結合するとT細胞の増殖を阻害するシグナルを細胞内に送る分子です。
T細胞レセプターを通じて抗原提示細胞からT細胞が受ける増殖刺激に対し、ipilimumabが結合すると、CTLA-4分子からのブレーキシグナルがない状態となり、T細胞は盛んに増殖することになります。すなわち、ipilimumabは細胞性免疫反応を通じて抗がん効果を表す抗体医薬となるわけです。
今回の試験では、対照群にメラノーマのgp100ペプチドワクチン投与群(n=136)をとっています。この群では1年で25%が生存していましたが、ipilimumabのみの群(n=137)は46%、ipilimumab+gp100群では44%が生存、どちらも対照群に比べて有意差があります(p=0.0026、p=0.0004)。
ASCO2010に先立ったアメリカがん学会(AACR2010、4月、ワシントン)では、ipilimumabによる自己免疫疾患の誘導(特に白斑が発生しやすい)という副作用がすでに問題視されていますが、ASCO参加の臨床医はまだその点は気にならないようです。自己免疫疾患発症初期なら、投与を中止すればリバーシブルでハンドリング可能だからということでした。
転移したメラノーマでは標準治療法がありません。今回の発表は間違いなく今後のメラノーマの標準治療につながるでしょう。
この例に代表されるように、基礎研究中心のAACRでは数年前から明瞭になっていた「がん免疫療法」への関心が、いよいよ多数の臨床データを伴ってASCO2010に登場してきたことが、今回は特に印象的でした。この傾向は、6月5日のがん免疫療法の教育講演でも、1000人規模の会場が満員となったことに象徴的に出ていました。
他のがん免疫療法に関する臨床研究のポスター発表をみると、まだまだPhase I段階のものが多いのですが、おそらく来年以降は、しっかりした臨床データ(Phase IIb以上)を伴わない発表は相手にされなくなるのではないかと予想されます。
なお、6月8日の#2506 Oral Abstract Sessionで、
Safety and antitumor activity of biweekly MDX-1106 (Anti-PD-1, BMS-936558/
ONO-4538) in patients with advanced refractory malignancies.
M. Sznol, J. D. Powderly, D. C. Smith, J. R. Brahmer, C. G. Drake, D. F. McDermott, D. P. Lawrence, J. D. Wolchok, S. L. Topalian, I. Lowy;
がありました。
PD-1という分子もT細胞表面にあって、増殖を阻害するシグナルを出します。これに対する抗体がMDX-1106ですが、この発表では、各がん種取り混ぜて約1/3の症例でCR, PRが出ています。MDX-1106は副作用がipilimumabより少ないため有望とされています。今後、T細胞増殖を制御する抗体や、T細胞増殖を刺激するがんワクチンなどの免疫療法が続々と標準治療法の中に登場することでしょう。
従来の3大がん治療法「手術・放射線・抗がん剤」の次にくる第4の治療法として、がん免疫療法が、それもその中の本命である細胞性免疫反応を活性化させる治療法が、世界の最先端のがん臨床医が集うASCOでも、がんの標準治療の一環として活躍できる時代がいよいよ到来したと感じた次第です。








