ドクター通信
175 多発がんも1個のがん細胞から発生する--遂にヒトで証明
09
Apr
4月8日着信のASCOからのニュースで、解剖学的には多発性と診断された肺癌のほとんどが、たった1個の肺がん細胞由来であることが、遂にヒトで証明された(Ref. 1)、とのことです。
"がん"は、体内の1個の正常細胞が変異し、自律的な増殖能を獲得、増殖過程でさらに変異を繰り返しつつ悪性化し腫瘤に育ってから"がん"として認識される、というのが筆者が理解しているがん発生の多段階説ですが、動物実験では確認されていても、ヒトで、しかも、見かけ上まるで異なる(病理所見でも似てはいるがやはり異なる)がんが一つの器官に出来ている場合に、はたしてこれがわずか1個のがん細胞由来なのかどうかは、これまで不明でした。定説化している学説であっても、ヒトでの証明がいかに難しいかを表す事例だと思います。
この難題にチャレンジしたのがインディアナ大のグループで、多発性肺がん症例30例(がん組織としては全部で70個)、うち26例がnon?small cell carcinoma、4例がcarcinoid/atypical carcinoid tumorsでした。
このがん組織をパラフィン包埋組織からレーザーマイクロデセクション法で切り出しゲノムDNAを抽出、loss of heterozygosity (LOH), TP53 mutations, and X-chromosome inactivation statusを分析したところ、多発肺がん間でLOHパターンが完全一致したのが26例 (87%、95% CI = 75% to 99%) 、TP53にpoint mutationがある10例のうち同一point mutationがあったのが8例、女性23例のうち全く同じX-chromosome inactivation パターンが見つかったのが18例(78%、95% CI = 67% to 98%) ありました。
これらを合わせると、30例中23 例(77%、95% CI = 62% to 92%)が全く同一の遺伝子変異を持つ、すなわち同一症例の異なる肺がんでも、たった1個のがん細胞由来だと結論づけています。
この結論から推定すれば、がん細胞が増殖する過程で見かけ上異なるがん組織が複数できているとしても、もともとは一個のがん組織とみなすことができ、それを治療すればよい、ということになります。
摘出がん組織をまるごとがん抗原として使用する「自家がんワクチン」は、もとのがん組織にがん抗原が発現さえしていれば、一つの摘出がん組織を用いても多発性の残存がんに対応できる可能性が十分あります(もちろん、多発性のがん組織がそれぞれ入手できるならば、それらの微妙な違いをすべてカバーできるよう、できるだけ多くを混合してワクチン原料とすることも可能です)。
REFERENCES
1. Xiaoyan Wang, Mingsheng Wang, Gregory T. MacLennan, Fadi W. Abdul-Karim, John N. Eble, Timothy D. Jones, Felix Olobatuyi, Rosana Eisenberg, Oscar W. Cummings, Shaobo Zhang, Antonio Lopez-Beltran, Rodolfo Montironi, Suqin Zheng, Haiqun Lin, Darrell D. Davidson, Liang Cheng. Evidence for Common Clonal Origin of Multifocal Lung Cancers. J Nat Cancer Inst Advance Access published online on April 7, 2009.
doi:10.1093/jnci/djp054








