ドクター通信
099-1 (1) 卵巣がんのMHC-I発現は予後を予測する独立因子である
25
Jul
MHC-class I(主要組織適合性抗原)分子は、その上にがん抗原ペプチドを載せてT細胞レセプターに提示する役割を担い、自己と他者(または異常な自己)の細胞を識別する重要な分子です。しかし、進行がんでは、この分子の発現がしばしば脱落することが知られています。
すでに、乳がん(1)と大腸がん(2)で、MHC-I発現は予後に相関する独立因子であるとされていましたが、今回、Rollandらは(3)、339例の卵巣がんのtissue microarrayを使って、詳細なMHC-I発現解析を試み、MHC-Iを発現している群では、年齢、ステージ、手術時のcyto-
reductionの程度、化学療法の有無に全く関係なく、予後が確かにやや良いと報告しています。
5年生存率でみると、MHC-I発現群で34.7%、非発現群では23.2%(log rank test, p=0.017)でした。
これは、がん進行にともないimmunoeditingが起こっていることを予測させるものです。すなわち、我々の体内では、異常化した細胞を除去すべく免疫監視機構(immunosurveilance)が働いていますが、がん細胞に対しても例外ではないと考えられ、正常細胞であれば必ずあるMHC-
I発現能力を未だ残しているMHC-I発現がん細胞は、体内の細胞傷害性T細胞(CTL)により殺されやすい状況にあること、MHC-I発現能力を失うまでに変異したがん細胞は生き残り早いスピードで増殖していくこと(がん全体としては悪性度が高まっていくこと)を示唆しています。
卵巣がんでは、一般に抗がん剤が良く効くとされ、術後であっても非常に強い化学療法が補助療法として実施されることがあります。強い化学療法は容易にリンパ球欠乏症をきたし、体内の免疫システムを破壊してしまいます。
化学療法の前に、MHC-I発現能力を失う程にがん細胞が変異してしまう前の未だ早期のうちに、免疫監視機構を強化すれば、結果的には強烈な化学療法を避けることができるのではないかと考えられます。
実際、筆者らが経験した卵巣がん症例0240は、
(→ http://www.cell-medicine.com/cases/report/ransogan.html )
手術時の腹水中に明細胞癌がありながら(死亡の危険が2~3ヶ月で起こる可能性大との主治医診断)、化学療法を忌避、自家がんワクチン療法を選択したため、 接種後4ヶ月以上腹水貯留なく、その後腹水貯留を認めるも無治療で経過、苦しくなってから腹水抜去、間歇的な低用量化学
療法開始し、知人と電車で外出できるまでに回復、ワクチン後22ヶ月経過するもなお現在元気でおります。
1例のみではなんら結論は得られないとしても、また、この症例のMHC-I発現程度の現状については不明ですが、今後検討に値するたいへん暗示的な事項だと思います。
REFERENCES
1. Madjd Z, et al. Total loss of MHC class I is an independent indicator of good prognosis in breast cancer. Int J Cancer 117:248-55, 2005.
2. Watson NF, et al. Immunosurveilance is active in colorectal cancer as downregulation but not complete loss of MHC class I expression correlates with a poor grognosis. Int J Cancer 118:6-10, 2006.








