ドクター通信

094-1 (1) ASCO2007の潮流

14

Jun

 先週に続き、ASCO2007の全体的な潮流についての話題をお届けします。

 今年のASCO(第43回米国臨床腫瘍学会)は、 6月1日~5日にイリノイ州シカゴにある世界一のコンベンションセンター・マコーミックプレースで開催され、世界各地から約3万人が参加したそうです。メインコンコースは人があふれ、銀座通り並みの混雑ぶりでした。今回の会長である
Gabriel N. Hortobagyi氏は乳がんが専門とのことで、全体的には乳がんの発表が目立っていました。

 がん治療法としては、抗体治療を含めて分子標的薬を従来の抗がん剤治療のスキームにどのように組み入れるかといった試験が盛んに行われており、腎癌で承認されているSorafenibやSunitinibでは、投与順を全ての組合せでトライするという複雑な試験までが組まれていました。

 Sorafenib、Sunitinibは細胞増殖のシグナル伝達系をターゲットとするため、メラノーマにも適用されています。ただし、Sorafenibは樹状細胞(DC)の機能を阻害し、MHCや共分子の発現も阻害します。分子標的薬とはいいながら、免疫療法との併用には必ずしも適しません。

 がん免疫療法としてはDCワクチン、他家メラノーマ細胞を利用したアロワクチン、ペプチドワクチンなどが発表されていました。ただ、免疫療法の治療効果はまだまだ十分なものではなく、3日目のEducational Session(Tumor Vaccine)では、ローゼンバークの論文を引用して、奏効率の低さとin vitroではキラー細胞活性が上がっても、治療効果と一致しないことを指摘していました。しかし、ワクチンの種類によっては強いT細胞反応と明瞭なCR症例も出ていることが紹介されていました。

 さらに改良すべき点としては、がん抗原とのアフィニティーが高いリンパ球の誘導と抗原の種類を増やすこと、そして免疫抑制作用の解除が指摘されています。

 がん免疫療法では世界的なトピックスとなっている免疫抑制の話題は、ASCOではまだ少なかったのですが、anti-CTLA4抗体の使用経験について発表がされていました。anti-CTLA4抗体は、T細胞の表面から増殖抑制シグナルを発するレセプターを阻害します。そのためT細胞が増殖しやすくなります。

 転移性メラノーマにanti-CTLA4抗体を適用したPhase II試験では、30~40%の症例でgrade 3~4の副作用(主に下痢)が認められるが対処可能で、median survival timeはコントロール群の7ヶ月に対し、10mg/kg投与群が10.3ヶ月、15mg/kg投与群が11.0ヶ月と改善されていました。

 また、ホルモン不応性前立腺がん(HRPC)におけるGM-CSFとIpilimumab(anti-CTLA4抗体)の併用試験でも、6人中3人で50%以上のPSAの減少が見られたと報告されていました。GM-CSFは樹状細胞の必須成長因子ですから、これも免疫応答の効果と考えられます。

 Anti-CTLA4抗体は免疫療法のアジュバント薬として期待されますが、下痢や大腸炎というgrade 3以上の副作用がでたり、リンパ球の活性化のみならず制御性T細胞(Treg)の増幅をももたらすという報告もあったりと、アジュバントとしては使用方法を工夫しなくてはならないと思われるものです。

 ASCO全体からは、抗体医薬を通じてがん免疫療法への関心が世界的に高まっていると感じられる一方で、がん免疫療法による明確な治療効果をさらに示していく必要があること、またそれらの作用機序の詳細な解明と提示が必要と思われます。

 またその中では、「自家がんワクチン療法」におけるように、患者自身のがん組織中のがん抗原を全て使うといった考え方は、技術的には決して間違っていないと思われます。特にがん抗原ペプチドワクチンを開発しているグループでは、単一抗原ペプチドワクチンを既にあきらめ、10
種類ものペプチド抗原を混合してワクチンとする試験も進行中でした。体内のがん抗原はできるだけ多数を有効に使おうというトレンドが明らかだからです。

 また今後の重要な課題として、免疫抑制反応をいかに解決するかといった点がよりよい治療成績への鍵だと筆者らも実感した次第です。