ドクター通信

092 「脳腫瘍に対する自家がんワクチンの効果」-- Cancer Scienceオンライン版に掲載されました

30

May

<論文の要旨>

Eiichi Ishikawa, Koji Tsuboi, Tetsuya Yamamoto, Ai Muroi, Shingo Takano, Takao Enomoto, Akira Matsumura and Tadao Ohno: Clinical trial of autologous formalin-fixed tumor vaccine for glioblastoma multiforme patients. Cancer Sci. 2007.
(doi: 10.1111/j.1349-7006.2007.00518.x)

 多型膠芽腫(Glioblastoma multiforme, GBM)症例における「ホルマリン固定自家がんワクチン」(以下AFTV)の安全性と臨床的効果を調べるべくパイロットスタディーを施行した。対象となった12例中8例が再発例で、4例が初発術後MRIで確認可能な残存腫瘍症例であった。(1)

 AFTVはホルマリン固定された手術検体から作成、接種前にadjuvantと混合した。患者は3回AFTVを皮内注射され、DTHテストが投与前後で施行された。加えて、腫瘍組織を用いて、腫瘍細胞の分子発現がAFTV治療の反応性を予測するかどうか検討した。

 治療による副作用は、皮膚の発赤、硬結、軽度の発熱程度であった。(2)

 12例中、1例がCR,1例がPR,2例がMR,1例がNCであり、残りの7例はPDとなった。(3)

 AFTV投与後からの生存中央値は10.7ヶ月であったが(4)、画像的に反応の認められた5例(3)中、3例は治療後20ヶ月以上生存した。

 また、腫瘍細胞のp53とMHC-class Iの発現率がこの治療の効果予測に役立つ可能性が示唆された。(5)

 このように、AFTVは安全で、GBM症例の予後を明確に改善すると思われる。AFTVの生存期間延長効果を確認するため、更なる臨床試験が望まれる。

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<セルメディシンからの補足コメント>

(1)脳腫瘍のうちのGBMは、ガンの中でも最悪中の最悪といわれ、難治性の最たるものの一つとして、新規治療法が開発される度に、GBMで試したか、果たしてその方法には価値があるのか、と常に話題に上る難敵です。

 現時点では、初回手術後に放射線60Gy、抗がん剤を2コース以上、場合によってはINF投与を併用する、というのが"標準的"治療法とされております。しかし、米国の臨床現場では、GBMに対する標準的治療法は"ない"とされておりました(少なくとも脳腫瘍向けの新薬「テモダール」(一般名 テモゾロマイド)登場以前は)。

 現在、GBMの標準的治療としては、初発患者に対し「手術+放射線治療+テモダール投与」が行われておりますが、これでも全生存期間中央値(MST)は14.6ヶ月で、「手術+放射線治療」のみの場合の12.1ヶ月に比べ、中央値がわずか2.5ヶ月増加するにとどまっております。

 そのためでしょう、本年5月1日には、ついに北米脳腫瘍連合などの患者団体が、米国議会に対し、研究推進のための資金提供と患者支援を要望しているほどです
 → http://cancernavi.nikkeibp.co.jp/news/post_422.html

(2)よく知られているように、テモダールでは問題となる副作用が多数認めらるのに対し、自家がんワクチンではこれまでに500例を越える各種がん症例に接種してきましたが、問題となる副作用は認められておりません。

(3)奏効率(CR+PR)は17%、NCまで含めた有効率(CR+PR+MR+NC)は42%でした。このCR症例は、既にワクチン接種後44ヶ月を経過しております。

(4)自家がんワクチンは、昨年7月に日本で承認された「テモダール」よりも、臨床パイロット研究段階ながら、既に大幅に優れた効果を表しております。

 「自家がんワクチン」を接種した結果、初回手術からカウントした場合の中央値が24ヶ月と、初発患者に対する「手術+放射線治療+テモダール投与」の場合の14.6ヶ月に比べて大幅に伸びております。
(再発症例・MRI上で確認可能な残存腫瘍症例で、自家がんワクチン接種後からでもなお10.7ヶ月あります)。

(5)NCまでを含むresponder 5例と、PDとなったnon-responder 7例を比較すると、病理切片上の腫瘍細胞のp53の発現率は、それぞれ2.9%と29.9%(p=0.021、Mann?Whitney's U-test)、抗MHC-class I抗体による免疫染色性をスコア評価したMHC-class Iの発現率は、それぞれ2.8と1.8(p=0.015、Mann?Whitney's U-test)と、有意差がありました。

 p53の発現率が低く、MHC-class Iの発現率が高い場合に、「自家がんワクチン療法」は良い成績となると推定されます。

 これらの結果を勘案すれば、再発はほとんど必発といわれるGBM初発例には、初期治療を「手術+放射線+自家がんワクチン」とし、「テモダール投与」は運悪く再発した場合に開始する、という治療計画も可能ではないかと思われます。