ドクター通信
087 がん治療研究の対象症例の選択--がん研究と治験においてパラダイムシフトを起こすべきだ--
06
Apr
この前のドクター通信 from セルメディシン No. 86 では、
* がん組織 ="均一な細胞集団"から"複雑な組織"へ
-----がん組織の見方に対するパラダイムシフトが進んでいます-----
というタイトルで発信しましたが、今回は、がん研究と治験においてパラダイムシフトを起こすべきだという米国発の意見を紹介します。
少し古いですが、この意見は隔週刊行の雑誌Presidentの2004年5月17日号に、Fortune誌の特約記事として和訳されて掲載されており、ホームページでも公開されていますので、読んだ方もおられるかもしれません。
→ http://www.president.co.jp/pre/backnumber/2004/20040517/823/
しかし、内容的には全く色あせておらず、まさに今日の問題です。
この記事のタイトルは刺激的ですが("衝撃の事実! がん治療先進国アメリカの敗北"、Clifton Leaf、杉原啓子訳)、内容はいたって生真面目なものです。要点は、
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メディアは最近、「グリベック」、「ハーセプチン」、
「イレッサ」、「アービタックス」、そして承認されたばかりの
「アバスチン」といった画期的ながん治療薬について書き立てて
おり、治療法の確立がこれまでになく現実味を帯びてきたように
思われる。
しかし、事実は異なる。
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という点に象徴されています。論点を抽出すると、
1.1971年の米国がん対策法制定以来、アメリカ人は2000億ドル近くを投入してきたが、がんによる年間死亡率はほとんど変わっていない。がんとの闘いに勝ててはいない。
2.がん研究者の集団思考は機能不全に陥っている。がん研究に構造的問題があるからだ。PubMed検索によると、マウスを使った実験的な研究を15万855件も発表しているが、このうちがん治療に結びついたのは極めて少数である。NCIは基礎科学研究を止めて、がん転移を阻止する方法や、人の反応に類似したより良い実験モデルを見つけ出すことなどに税金を使うべきである。
3.マウス実験モデルは問題がある。マウスに発生させるいわば「即席腫瘍」は、人間のがんの最も重大で恐ろしい特徴である、急速に変化するDNAを再現できない。しかし、マウスに代わるモデルがない、また「こうしたモデルを薬の有効性を見極める判断基準であるとFDAが認識し続けているため、一種の惰性が形成されてしまった」。
4.「がん細胞の特徴は遺伝子的な不安定さにある」、「がんは突然変異したひとつの細胞から始まると考えられているが、最終的に形成される腫瘍は様々な気まぐれな特質を持つ無数の細胞から成っている」。人の肺がんには100個の突然変異がある。
5.最終的にがん患者を死に至らしめるのは局所的な腫瘍ではなく、死因の実に90%が転移だ。ところが転移に焦点を当てた研究提案は全体の0.5%にも満たない。「難解だから」だ。こうした研究こそが必要なのだが、研究者は再現可能な結果を数多く生み出せる、より簡単な実験を選んでいる。製薬会社は転移の問題(患者を死に至らしめている原因)を解決することには重点を置かず、腫瘍を縮小させる薬の開発(患者の死亡とは関係のない)に焦点を当てている。
6.その結果、1995年から2000年までに欧州で承認された新しい12のがん治療薬には、生存率の改善、患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)の改善、安全性の向上などの面で、いずれの新薬にも何ら大幅な優位性は認められなかった。
7.製薬会社には、試験対象の化合物として承認が得られる公算が大きいものを選ばざるをえない。しかし、臨床試験の目標が人の命を救うことではなく、「適切な」科学を行うという見当違いのものになっている。この臨床試験システムにより製薬会社は最も重症の患者に新化合物を試すことを余儀なくされる。こうした患者ではすでにがんは広がりすぎており、腫瘍はかなりの遺伝子突然変異を起こしている。よって、初期段階の患者に
は効き目があるかもしれない薬が承認されるチャンスは永久に失われる。
8.がんは様々な細胞形質転換や時には長い潜伏期間を経て発現する多段階の病気だ。特に病変(形成異常、異常増殖、前がん状態)が起きた重大な局面では、こうしたプロセスを初期段階で阻害することが鍵を握ると考えられる。これを行うには医療関係者が、発がんの初期段階にある人は「健康」で治療に及ばずとの考えを捨てる必要がある。
9.がんの成長を示すバイオマーカーの発見に全力を傾けるべきである。また、簡単な血液検査や尿検査(例えばPSA検査)、あるいは高度な分子画像技術(PETやCTスキャン)で分かるバイオマーカーの発見にも尽力すべきだ。
10.どの薬が本当に有望かを見極めるには、それらの薬を病気があまり進行していない患者で試験することである。ここでも、がんの遺伝子的な不安定性が理由である。つまり病状の進行は、体に大きなダメージを与えるだけでなく、腫瘍に数多くの突然変異をもたらし、早期の患者とはかなり違った状態となるためだ。
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さて、皆様は気がつかれましたでしょうか。がん治療は、大きな残存癌を対象にするのではなく、できるだけ早期に初期ガン病変を発見し治療すべきであることはすでに常識となっていますが、少しでも大きくなったガン組織には、すでに多数の突然変異があるガン細胞がいることは、意外にも見落とされています。
その点で、がん免疫療法の上では、単一抗原を用いるよりも、全ての抗原候補を含む「「がん組織そのもの」」を用いる自家がんワクチン療法は理にかなっています。








