ドクター通信
063 免疫反応の抑制:遅れてきた千両役者-肥満細胞
27
Sep
アレルギーの本来の定義は、「二度目以降に入ってきた物質に対し、特異的に変化した宿主の反応」(von Pirquet, 1906)というものだそうです。これは免疫系が有している防御的応答と有害な反応全てを含んでいます。しかし、現在ではアレルギーというと、一般には後者の有害な免疫応答と受け止められています。
自然免疫反応の一環であるアレルギー反応に関与する細胞として、肥満細胞(mast cell)があります。この細胞は100年以上も前にすでに文献に記載され、現在ではIgE抗体を介してアレルギー反応を惹起する細胞として研究対象にされています。肥満細胞は、結合組織や粘膜組織に存在し、IgEを介して抗原特異的に脱顆粒反応することによって炎症反応を惹起しますが、この炎症反応によって外来抗原排除へとつなげていると考えられています(その副産物としてアレルギー疾患というオマケが付いてきますが)。
最近、この肥満細胞が単なる炎症の起点としてではなく、より高次元の免疫、獲得免疫反応の制御に関わっていることが分かりました。
免疫反応を制御する制御性T細胞(Treg、CD4+CD25+のT細胞です)をマウスから取り出して培養すると、必ず肥満細胞の夾雑が見られること、TregはIL-9を分泌すること、IL-9を培養系に添加すると肥満細胞がよく増殖することが知られています。一方、マウス(recipient)に他マウス(donor)の皮膚移植を行うと、通常は拒絶されますが生着することがあり(toleranceが成立しています)、その後もう一度同じdonorから皮膚組織を移植すると、その皮膚組織中にTregだけではなく肥満細胞も浸潤してきます(1)。
このことから、Luら(2)は、Tregと肥満細胞はなんらかの機能連携を行っているに違いないと考え、遺伝的に肥満細胞の無いマウス(C57B/6-Kit^W-sh/Kit^W-sh)をrecipientに用いて同じ実験を行いました。
その結果、toleranceは成立せず移植片は拒絶されてしまいましたが、このマウスに肥満細胞を注射すると、今度はtoleranceが成立して移植片は生着したのです。しかもこのとき、TregによるIL-9産生を抗IL-9抗体で排除すると移植片は拒絶されます。これらの現象から、TregはIL-9産生を通じて肥満細胞を呼び込み、これが拒絶反応を実際に抑制していると考えられます。
今後、腫瘍免疫反応を利用したがん治療においては、がん局所における肥満細胞の活動をうまく押さえ込む必要が出てきたと解釈されます。
化学物質でマウスに大腸がんを誘導するモデルでは、この肥満細胞の有無が腫瘍発生率に影響することも報告されています。100年以上も前に見つかった肥満細胞は、自然免疫から獲得免疫への橋渡しだけでなく、腫瘍免疫も含めて自己と非自己を区別するのに重要な千両役者として、再発見されたと言えるでしょう(3)。
REFERENCES
1.Zelenika, D., et al., Immunol. Rev. 182: 164-179, 2001.
2.Lu, L-F, et al., Nature 442: 997-1002, 2006.
3.Waldmann, H., Nature 442, 987-988, 2006.








