ドクター通信
055 がん細胞本体の脇を攻める
19
Jul
これまでのがん免疫療法では、当然ながらがん細胞本体を攻撃するのが第一義的な目標でした。
初期に開発された免疫療法は、非特異的ですが免疫応答全般を活性化し、その中に含まれているであろうがん細胞への攻撃能を引き出すというものでした。
次の段階では、がん細胞特異的な抗原分子をターゲットに、特異的な免疫応答を誘導する試みが行われました。技術的には精密にがん抗原特異的な免疫応答を誘導することが可能になり、がん抗原を用いたワクチン療法、CTL療法などが試みられております。
しかし、現在に至るも、残念ながらこれらの方法の臨床効果は十分とは言えません。がん細胞本体に対する特異的な免疫応答では不十分なのかもしれません。
「癌拒絶抗原」を活用するという新しい発想が登場しています。がん細胞そのものではなく、がん組織を構成する様々な細胞、構成分子も含めて、特異的免疫応答のターゲットにしてしまうという発想です。すでに抗体療法でターゲットにしている新生血管などもこのような範疇に入ります。
最近、がん組織中の線維芽細胞に特徴的な分子が発現していることが分かりました。Fibroblast activation protein (FAP)という細胞表面に発現する酵素(プロテアーゼ)で、大腸がん、乳がん、肺がんの組織の90%以上に発現していますが、正常組織の線維芽細胞には発現がなく、胎児期、創傷回復時などに発現が増強することが報告されている分子です。
2つのグループがこの分子を抗原にした動物実験で興味深いデータを報告しています。Leeらは、マウスのメラノーマモデルを用いて、FAPを負荷した樹状細胞ワクチンと、メラノーマの特異的抗原を負荷した樹状細胞ワクチンとを併用すると、それぞれ単独では見られない強い腫瘍拒絶効果を発揮することを報告しています(1)。
この併用ワクチン療法では若干の創傷回復の遅れ(致命的ではない)以外に主だった副作用はありませんでした。
Loefflerらは、FAPのDNAワクチン投与により、がん組織中の線維芽細胞が減少しコラーゲンも希薄な状態になることを観察しました。その結果、様々な分子量の薬剤のがん組織中への浸透性が亢進し、より低濃度で抗がん剤が効果を発揮することを明らかにしています。乳がんモデルマウスにおいてこのFAPのDNAワクチンと抗がん剤の併用が、それぞれの単独群に比べ有為にがんを拒絶し、延命効果を発揮したと報告しています(2)。このワクチンでは創傷回復の遅れはありませんでした。
このように直接がん細胞を狙うのではなく、がん細胞の脇を固める正常細胞に発現する分子を狙うメリットはいくつかあります。がん細胞由来の抗原と異なり、正常細胞に由来するため変異が起こらず安定的にターゲットにでき、しかも正常細胞ではアポトーシスに対する抵抗性が発現していない、等です。
当社の「自家がんワクチン」は、がん組織そのものを原材料として使用するため、FAPのような線維芽細胞抗原も、新生血管細胞特異的な分子も既に含まれていると考えられます。
まだ詳細は明らかではありませんが、がん細胞本体への攻撃の他に、これらの脇を固める正常細胞を攻めている可能性もあり、残存がん局所では期せずして併用効果が発揮されているかもしれません。
REFERENCES
1. Lee J, Fassnacht M, Nair S, Boczkowski D, Gilboa E.: Tumor immunotherapy targeting fibroblast activation protein, a product expressed in tumor-associated fibroblasts. Cancer Res. 2005 Dec 1;65(23):11156-63.
2. Loeffler M, Kruger JA, Niethammer AG, Reisfeld RA.: Tumor-associated fibroblasts improves cancer chemotherapy by increasing intratumoral drug uptake. J Clin Invest. 2006 Jul;116(7):1955-62. Epub 2006 Jun 22.








