ドクター通信

056 がん幹細胞 - 分化の逆転

27

Jul

正常組織には幹細胞があって、そこから増殖分化してきた前駆細胞がさらに増殖分化して組織細胞となり組織を形成します。この増殖分化の方向は一方通行で、逆行はありません。ただし、幹細胞だけは自らと全く同じ細胞を造る(self renewal)能力に特徴があり、一生に渡って組織細胞の新陳代謝を支えます。

 同様に、ある種のがん組織にもself renewal能力があるがん幹細胞があることが判明しています。

 では、がん幹細胞は正常幹細胞からできる、といえるでしょうか?(1)

 この点はがん幹細胞表面に発現されている分子が正常幹細胞表面に出ている分子と同じものが多いことから、もっともらしく聞こえますが、Krivtsovら(2)は、マウスを用いたMLL (mixed lineage leukemia) geneの研究から、MLL(-AF9 geneとfusionしたもの)が発現すると、"幹細胞特異的"遺伝子群(363 genes)の発現を誘発し、本来なら分化してself renewalしなくなったはずのミエロイド前駆細胞にself renewalを起こさせ、末梢血に白血病細胞を供給しつづけるようになることを示しています。

 つまり、前駆細胞のまま幹細胞の性質を獲得してしまうというわけですが、このような"幹細胞特異的"遺伝子群の発現誘発がヒト白血病の場合も起こっているか、が今後注目されるところです。 


REFERENCES

1. Nature, Advance Online Publication, doi:10.1038/nature05085, published online 16 July 2006.

2. Krivtsov, A. V. et al., Nature, Advance Online Publication, doi:10.1038/nature04980, published online 16 July 2006.