ドクター通信
048 肝がんで血管塞栓療法に放射線治療を追加するときはVEGF分泌誘導に要注意
23
May
肝がんで手術による切除が不可能なケースでは、ラジオ波による局所凝固療法や血管内にカテーテルを差し込む肝動脈化学塞栓療法(TACE)等が行われております。しかし、小型肝細胞癌を除き、そうした治療は外科的切除を凌駕する成績を出すことはなく、再発するたびに繰り返し繰り返し行わなければならないのが現状です。
放射線療法も行われる場合もありましたが、副作用を最小限にとどめ効果的に照射することが難しく、未だ一般化した治療法にはなっておりません。最近では3次元的に多方向照射する技術が進み、重粒子線など様々な放射線療法が試みられています。
ではそうした治療法を組み合わせた場合には、より好ましい治療効果が期待できるのでしょうか?どうやら単純な足し算にはならないようです。
Yih-Lin Chungらは手術不能肝がんにおいて、TACEに放射線を併用した臨床研究を行っております。TACEのみの治療例を274例、TACEと3次元放射線治療例を64例取り出し、3年生存率で比較したところ、TACE単独群では35%、放射線併用群では26%で有為差はありませんでした。
(ただし、これはランダム化試験ではありません。過去の症例を抜き出し比較したものであることに要注意です)。
上記の2群の間では、転移がなかった症例群ではTACEと3次元放射線治療の併用により予後が良いという結果だったのですが、転移がある症例群では逆に放射線併用により予後が悪化するという思いがけない結果がでたのです。
このとき、放射線照射により照射野組織は退縮しますが、照射野外で肝内転移、遠隔転移がかえって進む傾向が見受けられました。
この原因について、ヒト肝がん細胞株を用いたマウスモデルで調べた結果、2Gyという放射線(分割照射の1回あたりの線量に相当)を照射した肝がん細胞においては、血管内皮細胞増殖因子VEGFの産生が誘導されておりました。すなわち、照射野外にmicrometastasisしていたがん細胞塊で、腫瘍血管新生が亢進していると考えられ、かえって転移巣形成に有利になることが示唆されたのです。
この治療法では、抗VEGF抗体を併用して転移巣の栄養補給路を断つという選択肢もありますが、それでは腫瘍血管非依存性のマイナーながん細胞群が生き残ります。
しかしそうしなくても、あらかじめワクチンにより体内でキラーリンパ球を誘導しておけば、それらが新生血管網を利用して転移巣内に入り込み、最後の1個のがん細胞まで丁寧に殺しつくす、という戦略をとることも可能だと思います。
各種の治療法の併用効果は、しっかりした臨床試験の結果を待たざるをえません。
References:
1. Yih-Lin Chung, James Jer-Min Jian, Skye Hongiun Cheng, Stella Y.C. Tsai, Vincent P. Chuang, Thomas Soong, Yu-Mong Lin, and Cheng-Fang Horng, Sublethal Irradiation Induces Vascular Endothelial Growth Factor and Promotes Growth of Hepatoma Cells: Implications for Radiotherapy of Hepatocellular Carcinoma. Clin Cancer Res 12: 2706-2715, 2006.











