ドクター通信
037 従来のがんワクチン研究に使用されてきた動物実験モデルは間違っている
13
Mar
疾病の発生予防という観点からみると、"ワクチン"による感染症予防対策は広く普及していますが、「がん予防ワクチン」に関しては、まだ効果的なものはありません。なんとか該当するのは、肝臓がんの場合で、肝炎ウイルスワクチン等によって結果的に発がん予防効果を発揮しているものくらいしかないのが現状です。
(ちなみに、当社の「自家がんワクチン」は、"初発のがん予防用"ではありません。手術後の摘出がん組織を原料とする"再発予防・転移防止・微小がん治療用"ワクチンで、以下に議論する初発がん予防ワクチンとは異なります。)
動物実験レベルでは確かにがん発生予防効果が認められ、ヒトへの応用が期待されたがん予防ワクチンがこれまでに多数登場しております。それを受けて、長期にわたる臨床試験が世界中で試みられていますが、未だに期待したほどのがん発生予防効果をヒトで発揮したものはありません。(抗癌剤・タモキシフェンを使った乳がん発症予防の試みもされていますが、副作用問題があり、まだ推奨できる段階には至っておりません。)
なにが問題なのでしょうか?
がんワクチン研究に使用されてきた動物実験モデルに問題がある、とは以前から指摘されてきた点です。従来の動物実験モデルは、体外から腫瘍を移植した移植がんモデルで、ヒトで自然発生する腫瘍とは組織学的に全く異なるものです。そのため、様々な治療法に対する感受性が自然発生腫瘍よりも高く、特にホストの免疫系にはよく認識されるため、実験的には好都合でした。
しかし、最近、遺伝子組み換え技術を利用した多数の自然発生癌モデルが作られるようになってからは、「前癌」状態の細胞段階ですでに免疫系の攻撃をすり抜けていることと、最終的に本物の癌細胞に変化してゆくステップが解き明かされ、結果的には免疫系がうまく立ち向かえないがん組織が出来上がってくることが判明しています(Lolliniらの総説→Ref.1)。
たとえば、BALB-neuTマウスは、Rat Erbb2 のトランスジェニックマウスでヒト乳癌に近いステップを踏んで100%の確率で乳癌を発症するという実験モデルですが、Erbb2を抗原とする各種のがんワクチンをこのマウスに投与した実験では、100%で乳がん発生の抑制に成功している報告が6報も出ています(1)。
これらの論文群を通じて重要だと判明したのは、従来の常識と異なり、CTL誘導ではなく、抗Erbb2抗体の産生とIFN-γ産生性CD4+ T細胞の増加でした。特に抗Erbb2抗体のうちIgG2aのサブタイプが産生された場合が最も効果的だったことがわかっています(Ref.1のなかのTable 1b参照)。
より効果的な腫瘍発生予防・拒絶法を開発するためには、腫瘍が自然発生する実験モデルを用いるべきであることはもはや明白です。今後は、前癌状態を押さえ込み、発ガンにまで至らせないようにする方法を検討することが重要と考えられます。
REFERENCE
1.Vaccines for tumour prevention. Lollini PL, Cavallo F, Nanni P, Forni G.: Nat. Rev. Cancer. 2006 Mar;6(3):204-16.








