ドクター通信

027 抑制性T細胞を抑制すると

26

Dec

生体内では常に恒常性維持と異常状態の排除に関わる様々なシステムが発達しており(内分泌系、神経系等です)、それぞれのシステムには相互に相反する働き(促進と抑制)が必ず組みこまれていて、緊密な制御下でうまく体調が整えられるようになっています。

 免疫システムでも、異物の排除に働く段階がある(このときは積極的に免疫系が働き活性化する)一方で、何事も無かったように正常な状態に戻る段階がある(免疫反応が落ち着き、活性化状態が静まって行く)というように調節されております。

 また、免疫システムの本質として、自己抗原に反応しない「寛容」があるように、免疫系にはすぐれた制御機構が備わっております。これが異常になると自己免疫疾患を発症します。

 しかし、このような免疫を抑える仕組みに関する詳細は不明でした。最近、免疫制御、特に負の制御の担い手として、CD25+CD4+抑制性T 細胞(regulatory T cell, Treg)が注目を浴びています。

 最近、この細胞は免疫応答のごく初期から働き、自己免疫疾患のみならず、アレルギー、腫瘍免疫、移植免疫などの制御に深く関連しているとこが明らかになってきました。

 特に腫瘍免疫に関してはこのTregが自己から発生した癌細胞に対する免疫応答を抑えることにより、本来、免疫システムに排除されるべき癌細胞が見逃され、増悪の引き金になるということが分かり始めました。すなわち、適切な方法によってTregを抑えることができれば、有効に腫瘍免疫応答を惹起させることができるはずだと考えられます。

 DannullらはこのTregを排除するため、IL-2にジフテリア毒素を結合したDAB389-IL-2(米国ではONTAKという商品名で知られているT細胞リンパ腫用抗がん剤)を腎癌患者に投与し、その後、RNA-transfected DC vaccineを投与したところ、明らかに血中Tregを抑制したと報告しております(ref 1)。しかも後者のワクチン単独投与よりも、患者のcytotoxic T lymphocyte (CTL)をより強く刺激したとのことです。

 実際に掲載されている患者数は7例(対照群が4例)と、まだまだ臨床研究としては不十分ですが、この薬剤前処置でワクチン単独では弱かったがん細胞特異的な免疫応答が強く誘導され、延命効果に寄与する可能性が示されています。

 一方、Satoらは、卵巣癌の癌組織中に浸潤しているT細胞(TIL)と予後との関係を詳細に検討し、腫瘍組織中にCD8+T細胞が多く浸潤し、組織内のCD8+TIL/Tregの比が高いほど、生存率が高くなることを報告しております(ref 2)。

 これらの報告は、Tregの制御は免疫療法の成否に大きな影響を及ぼす可能性を示唆しています。今後、最もホットな研究領域となることは間違いありません。

 

REFERENCES

1. Enhancement of vaccine-mediated antitumor immunity in cancer patients after depletion of regulatory T cells.
Dannull J, Su Z, Rizzieri D, Yang BK, Coleman D, Yancey D, Zhang A, Dahm P, Chao N, Gilboa E, Vieweg J.
J Clin Invest. 2005 Dec;115(12):3623-33. Epub 2005 Nov 23.

2. Intraepithelial CD8+ tumor-infiltrating lymphocytes and a high CD8+/regulatory T cell ratio are associated with favorable prognosis in ovarian cancer.
Sato E, Olson SH, Ahn J, Bundy B, Nishikawa H, Qian F, Jungbluth AA, Frosina D, Gnjatic S, Ambrosone C, Kepner J, Odunsi T, Ritter G, Lele S, Chen YT, Ohtani H, Old LJ, Odunsi K.
Proc.Natl. Acad. Sci. USA, December 12, 2005, 10. 1073 /pnas.0509182102.